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病理診断科

病理診断科とは

 当院の数ある診療科の中でも、「病理診断科」というのは、とりわけ多くの方にとってなじみのない科であろうと思います。そもそも患者さんと直接顔を合わせる機会が全くといっていいほどない科なのです。いったいどんな仕事をしているのか、と問われたら、「病理診断」です、と答えることになりますが、その「病理診断」という言葉自体、一般の方には耳慣れない言葉でしょう。
 病気を診断する方法はたくさんあります。患者さんを前にした臨床医は、その話を聞き(問診)、感覚を使い(視診、触診、打診、聴診)、種々の臨床検査──血液や尿などを調べる検体検査や、心電図などの生理検査──を行って、病気を診断します。X線撮影、超音波、CT、MRIといった画像診断も重要になります。
 病理診断もまた、病気を診断する方法の一つです。病気に陥った患者さんの体の一部を採取し、それを調べて診断を下すのです。病変部を直接調べるのですから、診断の精度は格段に高く、多くの場合、病理診断イコール最終診断となります。ゆえに診断する者の責任は重く、幅広い知識と経験を持った、病理診断を専門とする医者が必要となってきます。病理診断科で働いているのは、「病理医」と呼ばれるそうした医者なのです。

病理診断科の業務について

組織診と細胞診

 人間の体は無数の「細胞」からなっており、細胞が集まって「組織」を構築します。さらに複数の組織が組み合わさって臓器となり、最後には一つの人体を形づくるわけですが、病理医が診断する「患者さんの体の一部」は、この組織と細胞の二種に大別され、それぞれの方法を「組織診」、「細胞診」と呼んでいます。
 組織診の場合、対象となる組織の大きさはさまざまです。内視鏡や穿刺針などで、やっと目に見えるくらいの微小な組織片を採取することもあれば(このように病変の一部のみを調べることを「生検」といいます)、大がかりな手術で臓器のかなりの範囲を取り出すこともあります。採取された組織は病理診断科に提出され、一日ないし数日をかけて「標本」が作られます。ここでいう標本とは、適切に処理した組織を非常に薄く切り、スライドグラスに載せて染色を施したもので、この仕事は臨床検査技師が受け持ちます。病理医は作られた標本を顕微鏡で観察し、診断を下します。小さい組織なら一件一枚の標本で済みますが、大きな手術材料だと、一件あたり数十枚もの標本を観察しなければならない場合もあります。
 細胞診でもこれと似た方法で標本を作り、顕微鏡で観察しますが、組織診よりも対象が小さいので、得られる情報には限界があります。しかし組織診に比べると採取が容易で、患者さんに与える苦痛が少ないため、がんのスクリーニングなどには適しています。細胞診では組織診よりも技師の関与が大きく、細胞検査士の資格を持つ技師が、標本作製のみならず標本観察にも力を発揮しています。

術中迅速診断

 病理診断が最も有用となるのは、病気が「良性」か「悪性」かを判断しなければならない場面です。良性なら投薬ですむが、悪性なら手術しなければならない──というふうに、治療法が全く変わってくるからで、患者さんの運命を大きく左右することだけに、診断は限りなく正確でなければならず、病理診断の精度の高さが期待されるわけです。
 どちらであっても手術はするが、良性と悪性とでは手術方法が異なる──(良性なら病変部のみを小さく切除、悪性なら臓器の大部分を切除)──という場合もあります。
 悪性なのに良性向けの手術をしてしまったら、病変を取り残してしまうことになる。
 良性なのに悪性向けの手術をしてしまったら、不必要な治療をしてしまうことになる。
 当然、手術前に正確な診断をすべきなのですが、諸般の事情でどうしても診断がつかず、しかし手術はしなければならない、ということもありえます。「術中迅速診断」が行われるのは、このような場面です。
 組織診でも細胞診でも行われ、検体提出から診断まで約15分、というこのシステムでは、手術中に結論が出るので、前記の問題点はクリアできます。スピード主眼であるため、標本の質はやや低く、通常より診断は難しくなるのですが、その利点は明白であり、術中迅速診断は、いわば「病理医と技師による救急医療」として、日常、頻繁に行われています。

病理解剖

 不幸にして患者さんがお亡くなりになった時、必要に応じて「病理解剖」を行います。種々の手段を講じても生前に診断がつかなかった場合、診断がついていても意外な経過をたどった場合など、臨床医は患者さんの死に対し、何らかの疑問を抱くことがあります。その疑問に答えるため、病理医が全身の臓器を肉眼と顕微鏡で観察し、総合的な診断を下すのです。その患者さんにとっては、真の意味での「最後の診断」となります。

当院の病理診断科の特徴

 以上が病理診断科の主たる業務ですが、当科ではこの他にもまだ、病理医と技師とが協力し合い、日々、さまざまな仕事をこなしています。当院には多くの臨床科があるため、病理診断科が関わる病気も多種多様であり、提出される検体の数も多数です。
 一年間のおおよその検体数は以下のとおりです。

組織診 約6,000件(うち術中迅速組織診 約400件)
細胞診 約5,000件(うち術中迅速細胞診 約10件)
病理解剖 約15件
 患者さんと顔を合わせることのない、変わった診療科ではありますが、病気の診断という、医療の最も重要な過程に、病理診断科はもっぱら携わっている、と知っておいていただければ幸いです。